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米国CAFC判決のご紹介: In re Tropp
2019年01月10日
IPニュース
米国
IN RE: TROPP
判決日:2018年12月12日

Nonprecedential
米国CAFC判決のご紹介: In re Tropp
1.概要
Tropp氏は、500出願に新規事項を追加した一部継続出願(continuation in part application)を出願。Tropp氏は、そのCIPから更に継続出願(continuation application)を出願。特許庁は、「継続出願のクレームは、CIPで追加された新規事項(new matter)を規定するものであるから記載不備」と判決。CAFCは、「継続出願のクレームが記載不備であるかどうかは、新規事項が追加されたCIP出願以降の出願の記載と比較すべき」と指摘し、特許庁の判決を破棄し、本事件を特許庁に差し戻した。

2.本判決を理解するためにポイントとなるキーワード
一部継続出願、継続出願

3.事件の背景と地裁判決
Tropp氏は、空港で特別なカギ(special lock)を用いて旅行鞄の中身をチェックする方法に関する500出願を出願。
Tropp氏は、500出願に以下の記載を追加してCIPを出願。

The phrase "any special lock of this type" is intended to include special locks having a multiplicity of sub-types, such as different sizes, different manufacturing designs or styles, etc.

このように、CIPは、500出願に記載の無い新たな記載(新規事項)が追加されて出願された。
Tropp氏は、このCIP出願を基に、継続出願(233出願)を出願。
特許庁の審判部は、以下を指摘し、「233出願のクレームは、CIPで追加された新規事項を含むものであるから、112条に基づき記載不備(lack of sufficient written description support under 35 U.S.C.§112)。従って、233出願は無効」と判決。

The 531 application does describe “‘any special lock of this type’ is intended to include special locks having a multiplicity of sub-types, such as different sizes, different manufacturing designs or styles, etc. But the 531application is a CIP of the 500 application. We find this description constitutes at least part of the added new matter of the CIP.

4.争点
米国特許法(United States Code Title - Patent)112条が規定する記載要件。新規事項が追加された一部継続出願を基に出願された継続出願であって、その継続出願のクレームがその新規事項を基にした内容を含むとき、そのクレームは、一部継続出願の元となった出願又は一部継続出願のどちらによってサポートされるべきか。

5.CAFC判決
CAFCは、審判部の判決を破棄し、差し戻す。
CIPは、元の出願の明細書に開示されていない新規な事項を追加して出願することが認められている。CIPで追加された新規事項には、そのCIPの出願日が与えられ、CIPの元の出願に記載のあった事項には、その元の出願の出願日が与えられる。
このように、CIPのクレームは新規事項を含むように作成することが認められている。
 次に、233出願はCIP(531出願)の継続出願であるから、233出願と531出願の明細書は同一である。したがって、233出願は531出願の記載に基づき新たなクレームを作成することができる。
このように、233出願のクレームを531出願に追加された記載に基づき作成することができる。
したがって、233出願のクレームが新規事項を含むか否かは、233出願、すなわち、233出願の元となった531出願の記載と比較して判断すべき。
CAFCは特許庁にその判断を実行させるべく、本事件を審判部に差し戻す。

6.コメント
CAFCの指摘はもっともなものですので、本判決に対してのコメントは特にありません。
ここでは、一部継続出願についてコメントしたいと思います。
一部継続出願は、「元の明細書に新たな記載を追加して別出願された出願」をいいます。ただし、実務的には、新たな記載を追加して一部継続出願するよりは、その記載を基にした通常出願をした方が良い、という考えもあります。一部継続出願の場合、その元の出願から存続期間は20年となる一方、通常出願として出願した場合、その通常出願の存続期間はその通常出願の出願日から20年となります。したがって、出願戦略としては、存続期間が長くなる通常出願を選ぶことが好まれるようです。当職が働いていた会社(米国企業)では、「基本的に一部継続出願を使用しない」、という方針でした。ただし、審査段階で「両出願には特許的な違いはないから後願は先願と自明型ダブルパテントの関係にある」と指摘され、結果として出願人はターミナルクレイマーを提出してその拒絶を解消することを選択する可能性が無いわけではありません。この場合、後願の存続期間は先願の存続期間と同じになります。また、後願が特許成立した後、その特許を用いて権利行使したとき、被特許権者は自明型ダブルパテントによる無効の抗弁することを試みるかもしれません。最悪の場合、裁判にて「後願は自明型ダブルパテントに基づき先願から無効」と判決される可能性が無いわけではありません。このように、結果としては「一部継続出願を選択する方が適切だった」ということもありうることになります。したがって、一部継続出願又は通常出願のどちらを選択するかは、メリット、デメリットを考慮して判断することになります。(文責:山屋)

7.本判決のリンク先
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-2503.Opinion.12-12-2018.pdf

以上