株式会社IPエージェント
世界を舞台に、お客様の知的財産戦略の推進を支援する専門家

「知的財産プロフェッショナル」集団

English Japanese
電話番号:03-5366-3266
HomeIP情報 → 米国CAFC判決のご紹介: Jack versus Plano
米国CAFC判決のご紹介: Jack versus Plano
2019年02月04日
IPニュース
米国
JACK HENRY & ASSOCIATES, INC. v. PLANO ENCRYPTION TECHNOLOGIES
判決日: 2018年12月7日

Nonprecedential
米国CAFC判決のご紹介: Jack versus Plano
1.概要
Planoは、テキサス州北部地区に本社及び/又は支店を有する複数の銀行に対して特許侵害を警告するレターを送付。銀行は、「特許無効、非侵害」との確認判決(Declaratory Judgement)を求めて同州北部 地区の連邦地裁にて確認判決訴訟(Declaratory Judgement Action)を提訴。北部地区地裁は、「Avocent v. Aten (Fed. Cir. 2008)判決によれば、特許侵害を警告するレターだけでは、同地区の裁判所に対する裁判管轄権(Jurisdiction)を生み出さない」と指摘し、本事件を却下。 CAFCは、「Avocent判決は、そのような 警告レターでは裁判管轄権を生み出すことはできないとはしていない」と指摘し、地裁判決を破棄して、 本事件を地裁に差し戻した。

2.本判決を理解するためにポイントとなるキーワード
確認判決訴訟、確認判決訴訟を提起できる裁判地

3.事件の背景と地裁判決
Planoは、テキサス州東部地区で登録する企業であって知財権の行使を業とするNPE (Non Practicing Entity、所謂パテントトロール)。
Planoは、テキサス州北部地区で銀行業務を行う複数の銀行に対し、「銀行が提供するモバイルアプリはPlanoが保有する特許を侵害する」と警告し、特許ライセンスの締結を求めるレターを送付。
Jackは、当該モバイルアプリを製造し銀行に提供。Jackは、当該アプリに対する知財権侵害の問題を銀行に代わりに対応する免責義務を負う。
Jack及び銀行は、 「同特許は無効及び同特許を非侵害」との確認判決を求めて、テキサス州北部地区で確認判決訴訟を提訴。
北部地区地裁は、「Planoは、被疑侵害者に特許侵害を警告するレターを送付しているが、Avocent v. Aten判決によれば、それだけでは確認判決訴訟を認める対人管轄権(personal jurisdiction)*注)」を構築しない」と以下の通り指摘し、本提訴を却下。 
While such letters might be expected to support an assertion of specific jurisdiction over the patentee because the letters are purposefully directed at the forum and the declaratory judgment action arises out of the letters, the Federal Circuit has held that, based on policy considerations unique to the patent context, letters threatening suit for patent infringement sent to the alleged infringer by themselves do not suffice to create personal jurisdiction.

注)米国の裁判所が訴訟の審理を行う権限を裁判管轄権(jurisdiction)といいます。この裁判管轄権は、事物管轄権(subject matter jurisdiction)と対人管轄権(personal jurisdiction)に分かれます。事物管轄権は、裁判所が裁判を行う権限が認められた訴えの種類で、特許権侵害は連邦地方裁判所が一審、CAFCが控訴審となります。一方、対人管轄権は裁判所が各当事者に対して裁判を行う権限で、一般管轄権(general jurisdiction)と特別管轄権(specific jurisdiction)の2種類に分かれます。一般管轄権は、被告が住所を有する地または実質的または継続的かつ組織的な活動を行った地に認められます。特別管轄権は、一般管轄権で認められる裁判地以外で、適正・公平の観点から最小限度の接触(minimum contact)があると判断される地に認められます。

4.争点
ある地区を拠点とする銀行が特許侵害を警告するレターを受取り、その地区の裁判所にて確認判決訴訟を提訴したとき、その地区の裁判所は、その警告レターを基に確認判決訴訟を扱うことができるか。

5.CAFC判決
CAFCは、地裁判決を破棄し、本事件を地裁に差し戻す。
Avocent判決は、「特許侵害を警告するレターでは裁判地の要件を満たすことはできない」と判断していない。Avocent裁判では、特許権者は台湾に在住し、被疑侵害者は確認判決訴訟をアラバマ州にて提訴。この確認判決訴訟が提訴されたとき、両当事者は既に関連する特許侵害訴訟をワシントン州で係争中。Avocent判決は、「確認判決訴訟の裁判地を判断するには、警告レターを含む全ての状況をもとに判断 すべき」と指摘。
被告であるPlanoは、裁判が提訴されたテキサス州北部地区の住人ではなく、対人管轄権のうち一般 管轄権の要件を満たさない。したがって、本裁判は、特別管轄権の要件を満たすかの判断が必要となり、 最小限度の接触(minimum contact)の有無が判断される。Akro v. Luker (Fed. Cir. 1995)判決によれば、
特別管轄権は以下の3要件によって判断される。
(1) 被告はその裁判地の住人として目的をもってその活動に関与しているか(whether the defendant “purposefully directed” its activities at residents of the forum);
(2) その申立ては、その裁判地内の被告の活動に起因または関連するか(whether the claim arises out of or relates to the defendant’s activities within the forum)および
(3) 対人管轄権の主張が妥当且つ公正であるか(whether assertion of personal jurisdiction is reasonable and fair)。
第1及び第2の要件に関して、適正・公平の観点から、警告レターは最小限度の接触の要件を満たすと判断されている (New World International v. Ford Global Technologies (Fed. Cir. 2017))
Planoは、以下の通り「特許侵害を警告するレターは最小限度の接触要件を満たす」ということに同意。
Plano “purposefully directed its charges of infringement to at least eleven banks conducting banking business in the Northern District of Texas. These charges arise out of or relate to Plano’s patent licensing activities in the Northern District, pursued in letters from Plano and its counsel.
第3の要件に関し、Planoは、「北部地区が不便、不合理又は不公平」と主張していない。
以上のとおり、北部地区は、北部地区で業を為す銀行に対する特許侵害警告及びライセンス行為に対して実質的な利害関係がある。
したがって、Planoはテキサス州北部地区に対して対人管轄権(特別管轄権)を満たすものであり、同地区は適切な裁判地である。
Jackは、同銀行に対して被疑侵害システムを納品し、同銀行に対する免責を負う義務を負う。したがって、Jackは、Microsoft v. DataTern (Fed. Cir. 2014)判決が示すように、本裁判に参加する立場にある。
If Appellees have an obligation to indemnify their customers, they would have standing to bring suit. Microsoft v. DataTern (Fed. Cir. 2014)

6.コメント
特許権者から特許侵害を警告するレターを受け取ったとき、その被疑当事者は、積極的に「特許権の非侵害・無効」を裁判所に問うことができます。この手続きを確認判決訴訟と言います。この手続きの一つのメリットは、特許権者が選ぶ裁判地ではなく被疑当事者に有利な裁判地で提訴できることにあります。Planoは、テキサス州の東部地区を拠点としていますが、テキサス州東部地区は勝訴率が高く、裁判手続きが早い、という理由から、パテントトロールが好んで使用する裁判地の一つとなっています。

7.参考
米国の裁判地(venue)は、28 U.S.C. 1400条(特許裁判地法)及び28 U.S.C. 1391条(一般裁判地法)に規定されています。
特許裁判地法 28 U.S.C. 1400条(b)項は、米国に居住する企業(domestic corporations)について次の通り規定しています。
 (b) 特許侵害についての民事訴訟はいかなるものであっても、被告が居住する(reside)地、または、被告が侵害行為を行い、かつ定期的・確立されたビジネスを行っている場所を有する地において提訴しうる
(Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business)
一方、地裁(district court)の裁判地を規定する28 U.S.C. 1391条(c)項は、広義の「居住」として、「民事訴訟の被告として、対人管轄の対象となるあらゆる司法区において、設立の有無を問わず居住しているものとみなす」と規定しています。
特許侵害訴訟に関わる「居住」について、28 U.S.C. 1400条(特許裁判地法)と28 U.S.C. 1391条(一般裁判地法)のどちらが適用されるか、最高裁が判断を下しました(TC Heartland v. Kraft Food 最高裁判決、2017年5月22日)。
最高裁判決は、裁判地についての一般規定1391条(c)項の改正は、特許侵害訴訟の裁判地における「居住」の意義を変更していない。米国企業は、特許侵害訴訟の裁判地に関して、設立の州にのみ居住する、としました。
TC Heartland 判決は米国企業に関わる判断であり、外国企業(foreign corporations)には言及していません(Brunette Machine Works v. Kockum Indus (1972))。最高裁は、外国企業に関する見直しを提案していますが、一方で、28 U.S.C. 1400条(b)項は外国企業に適用されず、28 U.S.C. 1391条(d)項は、「外国企業はどの司法区でも提訴されうる」(an alien may be sued in any district)としています。
外国企業(非米国企業)に関しては、従前通りどこの裁判地でも特許権侵害の問題に対して提訴可能と考えられます。
外国企業に関わる判決は重要であり、今後もウォッチしていきたいと考えます。(文責:山屋)

8.本判決のリンク先
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/16-2700.Opinion.12-7-2018.pdf

以上